取材の場で意外と重要な三箇条

取材の場で意外と重要な三箇条

取材の場は、普段の友人や同僚とのコミュニケーションとは少し違う特殊な場です。

対等に言葉を交わす日常会話とは異なり、取材では「質問をする側」と「答える側」という明確な立場の違いがあります。この構造があるからこそ、受け手が話しやすい雰囲気を作りながら、最終的に記事に必要な情報を引き出す工夫が求められます。

もちろん、基本的なコミュニケーションのスキル、例えば共感や傾聴力などは取材であっても重要なことに変わりありません。

しかし、取材ではそれに加えて「相手の言葉を尊重しつつ、自分が主導権を握る」というバランス感覚が求められます。気持ちよく話をしてもらうことは大切ですが、記事の編集時に「たくさん話してもらったものの使える情報が少ない」となってしまっては本末転倒です。

ここでは、私の経験をもとに編み出した「取材におけるコミュニケーションの三箇条」を紹介します。

「最初の一言」ですべてが決まる

取材で話を聞ける時間は限られています。短い取材だと、1人あたりわずか5分しか話を聞けない場合もあります。そのため、最初の印象が悪いと、その後の時間をどれだけがんばっても取り返せません。

言い換えれば、取材は「最初の一言」でほぼ勝負が決まると言っても過言ではありません。緊張感を持ちながら、万全の準備で挑みましょう。

まず大切なのは、相手に「怪しい人ではない」と安心してもらうことです。ファーストコンタクトでは、プレスパスや名刺を見せるなど、信頼感を与える工夫をしましょう。

そして、どんな目的の取材なのか、取材の所要時間やどのような内容を聞きたいのか、相手にとって重要な情報を簡潔かつ明確に説明することもお忘れなく。こうした説明が不足すると、相手に不安を与えたり、警戒心を持たれてしまう可能性があります。

ちなみに、最近は記者を装って、個人情報を聞き出す犯罪が増えているそうです。こういった背景もあるので、飛び込み取材をする場合や一般の方に話を聞く場合には、特に注意しましょう。

また、第一印象を良くするためには、ぱっと見の雰囲気作りも重要です。例えば、笑顔を忘れず、明るいトーンで話しかけることで、相手に親しみやすさを感じてもらうことができます。取材者として真剣な態度を持ちつつも、相手が構えずに話せる雰囲気を作ることが大切です。

ただし、言葉遣いについては注意が必要です。もちろん丁寧であることは基本ですが、あまりにかしこまりすぎると「記者然とした印象」が強くなり、かえって相手を萎縮させてしまうこともあります。相手がリラックスして話せるように、丁寧さと親しみやすさのバランスを意識しましょう。

沈黙もコミュニケーションの一部

取材において、記者側が喋りすぎるのはNGです。日常会話では場を盛り上げたり、自分の意見を述べることがコミュニケーションの一環として重要視されますが、取材ではその姿勢が裏目に出てしまうことがあります。

取材はあくまで、相手から情報を引き出し、それを最終的な記事という形でアウトプットするための場です。楽しくおしゃべりをすることが目的ではありません。まずはこの違いを意識してみましょう。

例えば、取材をもとにイベントレポートを作成する場合、取材対象者にその場でどのような体験をしたのか詳しく語ってもらうことが重要です。ここで記者が自分の感想を話しすぎたり、本筋と関係のないところに共感しすぎたりすると、会話が逸れてしまい、必要な情報を引き出せなくなる恐れがあります。その結果、記事が散漫になり、読者に伝えたい内容がぼやけてしまいます。

また、相手が言葉を選んでいる沈黙の時間に焦って、次の質問を矢継ぎ早に投げかけるのも避けるべきでしょう。相手が言い淀んでいる時には、単に考えを整理している場合や、どのように表現すれば良いかを検討している場合があります。このようなケースでは、相手の表情や仕草をよく観察し、適度な間を取ることが大切です。沈黙を恐れずに待つことで、相手が自然に深い話を始めてくれることもあります。

ただし、相手が迷っている原因が「質問の意図が伝わっていない」場合には工夫が必要です。質問を少し言い換えたり、質問の意図を丁寧に説明したりすることで、相手の理解を助けることができます。また、他の取材対象者の回答例を簡単に示すことで、相手が回答の方向性をつかみやすくなる場合もあります。

取材の中で「沈黙」は決して無駄な時間ではありません。相手が回答内容を深める時間であり、記者にとっても次の手を考える大切な時間です。沈黙を恐れず、適切に活用しましょう。

相手を尊重する態度が信頼を生む

取材を受ける側として、馬鹿にしたような態度や否定的な反応をされると、積極的に話したいと思えなくなるのは想像にかたくないでしょう。

例えば、質問に答えたのに記者が「へぇ、そうなんですね」とそっけなく返すだけだったらどうでしょうか。「本当に話を聞いているのか?」と不快になったり、「今の回答は求められていなかったのか?」と不安になったりするでしょう。こうした態度は、取材対象者の熱意を一気に冷ましてしまいます

そもそも、取材は記者側にメリットが大きい行為です。そのため、対象者に「協力してもらっている」という意識を常に持つべきでしょう。この認識を欠いたまま進める取材では、相手に不快感を与え、信頼関係を築けなくなります。

そのため、私は取材を行う時には常に、相手の時間をいただいているという感謝の気持ちを持って挑んでいます。その気持ちを伝えるには、丁寧な言葉遣い、相手の話への共感、そして相手の目を見て真剣に耳を傾けるといった基本的な姿勢が重要です。こうした態度を示すことで、相手もリラックスして話しやすくなります。

筆者が意識しているのは、子どもを含め、誰に対しても変わらぬ態度で丁寧に接することです。特に、子どもは大人の態度を敏感に感じ取ります。こちらにその気がなくても、「この人は自分を下に見ている」と受け取られることがあります。そのため、取材相手が誰であっても、相手を尊重しつつ、親しみやすい雰囲気を作ることを心がけています。

相手を尊重する態度は、相手に「この人には話しても大丈夫」と感じさせ、信頼を生む大きな要因となります。相手が気持ちよく話をできる環境を整えることは、取材者にとっての基本であり、結果的に記事の質を大きく向上させる要となります。

「こう聞いてくれたら嬉しい!」受け手目線の理想の取材

「こう聞いてくれたら嬉しい!」受け手目線の理想の取材

取材を受ける立場からすると、どんな質問をされるかによって話しやすさが大きく変わります。

「この記者、よくわかってるな」と思える質問もあれば、「形式的で浅いな」と感じられてしまう質問もあるでしょう。受け手の本音やオリジナリティを引き出すには、単に質問を投げかけるだけでなく、その内容やアプローチに工夫が必要です。

取材対象者は、自分の考えや経験を正確に伝えたいと感じる一方で、どこまで話せばいいのか迷う場面もあるでしょう。だからこそ、記者側が「相手に聞きたいこと」だけでなく、「相手が話しやすいと感じる質問」を意識することが、良い取材の第一歩となるのではないでしょうか。

ここでは、私なりに考えた、受け手目線で「こんな質問なら話したくなる」「こう聞かれると安心して答えられる」という理想の取材スタイルを紹介していきます。受け手にとって嬉しい質問とは何かを考えることで、取材がより深みのあるものになるので、ぜひこれを読んでくれている皆さんも、自分なりの「取材の美学」を考えてみてください。

「ここを聞いてほしかった!」受け手が期待する質問とは

取材を始めたばかりの頃には、相手の反応を見て、「今の私の質問、ズレてたんだ」と反省したことがよくありました。受け手に「そこじゃなくて、本質的な部分を聞いてほしい」「せっかく話せるエピソードがあるのに触れてくれない」と思われてしまうと、取材が不完全燃焼に終わることもあります。

最悪の場合、「この人に話しても無駄だ」と、相手の熱量が下がることすらあります。一方で、「ここを聞いてほしかった!」という質問ができれば、話が弾み、思わぬ面白いエピソードが飛び出すこともあります。

では、受け手が期待する質問とは何でしょうか。

私が出した結論は、「その人ならではの経験や考え方に焦点を当てた質問」です。単に事実をなぞるのではなく、相手の本音や個性を引き出せる質問が鍵になります。

例えば、仕事の成果について質問するとき、ただ「どうやって達成しましたか?」と聞くだけでは、ありきたりなエピソードしか得られないかもしれません。それよりも、「成果を出す過程で一番苦労したことや、特に意識したポイントは何ですか?」と問えば、より具体的でリアルな話が聞けます。

また、「〇〇を達成する中で、私だったら〇〇と考えそうなのですが、どうしてその選択をされたのですか?」というように、少し意外性のある質問を加えることで、成功の裏側にある新しい視点を引き出せることもあります。

事前準備が可能な場合は、相手の経歴や活動内容をリサーチし、その情報をもとに質問を組み立てることも大切です。

例えば、「〇〇の経験が現在の仕事にどう活きていますか?」といった質問を投げかけると、受け手は「自分のことを理解してくれようとしている」と感じ、話しやすくなるでしょう。

一方で、街頭インタビューのような場面では、短い会話の中で相手の基本情報をさりげなく引き出し、そこから興味深い話を掘り下げる工夫が求められます。

取材の目的は、受け手が話したいと思っていることを引き出し、それを読者にとって魅力的な記事にまとめることです。それを忘れず、「いい質問」ができるように試行錯誤を続けてみてください。

「先入観は捨てる」人それぞれ当たり前は違う

取材に臨む際、記者として最も避けるべきことの一つが「先入観を持ったまま質問すること」です。

事前のリサーチはもちろん大切ですが、それが固定観念や偏った視点につながると、取材対象者の本音や新しい視点を見逃してしまう恐れがあります。

実体験として、母と買い物に行った時に、街頭アンケートを求められ、「親子でショッピングいいですね!お父様はお留守番ですか?」と聞かれたことがありました。しかし、私たち家族は父を早くに亡くしているので、正直、その質問をされた瞬間にこのアンケートに対して真摯に回答しようという気持ちが失われました。

これはやや極端な例ではありますが、「この人はきっとこう考えているだろう」「こういう答えが返ってくるはずだ」と予測を立てた上で質問をすると、無意識に相手の気持ちを害したり、答えを誘導してしまったりすることがあります。これでは、受け手が本当に伝えたかったことが表に出てこないだけでなく、会話が形式的で浅いものになってしまいかねません

先入観を捨てるためには、相手のバックグラウンドやテーマに対して「わかっているつもり」になることを避けましょう。自分が「当たり前」と考えていることは、相手にとっては違うかもしれません。

また、相手の言葉をそのまま受け止める姿勢が重要です。例えば、予想外の回答が返ってきたときでも、「なぜそう考えたのか?」と興味を持って深掘りしてみることで、思わぬエピソードや新しい情報が得られることがあります。

事前情報や一般的な例はあくまで補助的なものであり、取材中に相手の話を基に新しい質問を生み出すことが、より豊かな会話を生む秘訣です。どんな瞬間も柔軟でニュートラルな心構えを持ち続けることを意識してみましょう。

取材後に「いい時間だった」と双方が思えるやり取りを目指して

私の理想とする取材は、ただこちらが一方的に情報を引き出すだけではなく、受け手にとっても「有意義な時間だった」と感じてもらえるものです。

例えば、経営者インタビューのように、その人の視点や経験が記事の核となる場合は、普段一般の人が知り得ないような実態を引き出し、読者に新たな解像度を提供することが、記事を掲載するメディアとインタビューを受けてくださったご本人双方にとっての価値につながります。

有意義な取材にするためには、自分と相手にとって、「取材」から得られる価値を考える必要があります。

例えば、私は街頭インタビューのようなカジュアルな取材の際は、「取材を受けたこと自体が良い思い出になった」と感じてもらえるよう心がけています。

取材の際に撮影した写真をその場で送ったり、後日完成した記事をSNS経由で送るなど、小さな工夫を加えることで、取材そのものをポジティブな体験として記憶してもらうことができます。こうした対応が、取材対象者との良い関係づくりにつながり、記事を拡散してもらえるなど、より多くの人に記事が届くことにもつながっています。

また、取材を「いい時間だった」と感じてもらうためには、相手に新たな気づきを与える質問をすることも重要ではないかと考えています。相手自身が深く考えたことのなかったテーマや、新しい視点での問いかけを行うと、「そういえば、これについてちゃんと考えたことがなかった」といった反応を引き出すことができます。その瞬間、単なる取材が「対話」に変わり、相手にとっても価値ある時間となります。

取材は記者と受け手の共同作業でもあります。受け手が「いい時間だった」と感じることが、最終的に記事の質にも良い影響を与えます。相手にとっても、記憶に残る対話の時間を提供できるよう、細やかな心配りを忘れずに取り組んでいきたいものですね。

一番大切なのは相手に興味を持つこと

一番大切なのは相手に興味を持つこと

最後になりますが、取材において最も大切なことは、質問をする相手に本気で興味を持つことだと、考えています。

その人のバックグラウンドや生き方に関心を抱き、リスペクトする気持ちがなければ、心に響く質問をすることはできません。事前に用意した質問がどんなに完璧でも、興味のない態度は相手に伝わり、会話が表面的なものに終わってしまいます

例えば、自分が面接を受ける場面を想像してみてください。履歴書や志望動機について、面接官が本当に自分に興味を持っているのか、それとも形式的に質問しているだけなのかはすぐにわかりますよね。

もしも形式的な質問ばかりされて、「この人、全然自分に興味がないな」と感じたら、話す気も失せてしまうでしょう。それと同じことが取材でも起こり得ます。取材対象者に「自分の話に関心を持たれている」と感じてもらうことが、良い取材のスタート地点です。

興味を持つ力を鍛えるには、日頃から「これはなぜだろう?」と考える習慣を持つことが効果的です。何気ないニュース記事や日常の出来事について、深掘りしたいと思う気持ちを大切にすること。それが、未知の世界に飛び込むアンテナを敏感にし、取材の質を高める原動力となります。

また、自分が知らないことを相手から教えてもらいたいという素直な気持ちを持つことで、コミュニケーション自体を楽しめるようになります。そして、その楽しさをアウトプットとして記事に反映することで、自然と取材のスキルは磨かれていくのではないでしょうか。

だからこそ、まずは相手を知りたい、話を聞きたいと思う気持ちを大切にしてください。自分の好奇心を武器にして、取材の現場を楽しむことができれば、きっと読者にとっても魅力的な記事が生まれるはずです。

この記事を書いたライター

執筆者

Haruka Matsunaga

おしゃべりが止まらない5か国語話者ライター。二次元にも三次元にも推しがとにかく多すぎるオタク。素敵なものや自分の好きなものをとにかくたくさんの人に広めたいという気持ちが執筆のモチベーションです。ペンは剣より強し、言葉の力を信じて...

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