試合というドラマを進化させる「受け」の重要性

プロレスを知らない方は、「受けの美学」とは何か、疑問に思うかもしれません。相手を打ち負かそうと技を繰り出す姿ばかりを見ていると、プロレスが単なる力比べに見え、技を受ける側に目が向かないかもしれません。
試合をよく観ていると、プロレスラーにはそれぞれの背景があり、感情を露わにして試合というドラマを生み出していることが伝わってきます。このドラマを最も効果的に表現するのが「受け」です。
例えば、強烈な打撃を受けて倒れながらも立ち上がる姿は、観客に「不屈の精神」を伝えます。必殺技を受けて苦悶の表情を浮かべる姿は、技の破壊力を視覚的に表現します。これらの「受け」を通して、観客はレスラーの感情に共感し、試合に没入していくのです。
「受け」は、技の凄さを表現するだけでなく、試合の流れをコントロールする役割も担います。ピンチの場面で相手の猛攻を耐え抜き、一瞬の隙を突いて反撃に転じる展開は、「受け」によって生まれるドラマの醍醐味です。
受け身を取るだけでなく、相手の攻撃を受け流し、体勢を立て直すテクニックも求められます。高度な「受け」は、試合をより感情を揺さぶるものへと進化させるのです。
一流レスラーは「受け」で語る!

プロレスファンでなくとも名前は聞いたことがあるような名レスラー達も、それぞれの個性を「受け」で表現してきました。ジャイアント馬場は、巨体を揺らしながら相手の攻撃を受け止め、余裕の表情を見せて自らの強靭さをアピールしました。
また、「燃える闘魂」アントニオ猪木は、強烈な打撃を受けながらも鋭い眼光で相手を睨みつけ、反撃への執念を示しました。これらの「受け」は、彼らのキャラクターを象徴するものであり、ファンの記憶に深く刻まれています。
「受け」にもさまざまなスタイルがあります。豪快に吹っ飛んで技の威力を表現する「派手な受け」や、相手の攻撃を受け流し、巧みに体勢を立て直す「テクニカルな受け」、さらには苦悶の表情で痛みを表現する「感情的な受け」など、多岐にわたります。
一流と呼ばれるレスラーと認識されるには、常に名勝負を生み出すための相手レスラーが必要です。相手レスラーの強さがファンに伝われば、それだけそのレスラーを倒した時の興奮も高まります。一流レスラーは「受け」を通じて、相手の良さを引き出すと同時に、自らの強さも表現するのです。
全く「受け」を行わないレスラーは、一時的には強さを誇示できますが、長く続くプロレスのストーリーの主役にはなり得ません。
取材ライターとプロレスラーの共通点

ここまでプロレスの「受けの美学」について熱く語ってきましたが、そろそろ取材ライターについても触れないとお叱りを受けそうです。筆者はプロレスラーの「受け」と取材ライターの「聞く」には共通点があると考えています。
「受け」と「聞く」は一見、全く異なる行為に見えるかもしれません。実は、その根底には共通の「相手を活かす」という精神が存在するのです。プロレスラーは、相手の技を受け止めて相手の強さを引き出し、取材ライターは話を聞いて相手の魅力を引き出します。どちらも、相手を主役として引き立てることで、より良い結果を生み出すのです。
取材において重要なのは、相手の話に真摯に耳を傾ける「傾聴」です。相手の言葉だけでなく、表情や仕草からも情報を読み取り、相手の感情を理解しなければなりません。相手が話しやすい雰囲気を作り、安心して話せる関係を築く必要があります。相手の言葉を否定したり、遮ったりせず、最後まで聞き切る姿勢が大切です。
まさに、プロレスラーが相手の技を「受け止める」ように、取材ライターは相手の言葉を「受け止める」必要があるのです。
プロレスの「受け」を応用したインタビュー術

プロレスの「受け」を応用すれば、インタビューの質を向上できます。たとえば、相手の話に相槌を打てば、相手に「あなたの話を聞いています」というメッセージが伝わります。質問を投げかけることで、相手の話を深掘りし、より具体的な情報を引き出せるでしょう。
沈黙も有効です。相手が言葉に詰まった時に、無理に質問をせず沈黙を守ることで、相手は自分の内面と向き合い、より深い言葉を引き出せるかもしれません。
「なぜ?」「どのように?」といった質問は、相手の思考を促し、より深い情報を引き出すのに有効です。質問攻めにするのではなく、あくまでも相手のペースに合わせた質問を心がけます。相手が話しにくい話題であれば無理に聞き出そうとせず、別の角度からアプローチするといいでしょう。相手の言葉を注意深く聞いて、相手が本当に伝えたい内容を理解するよう注意深く耳を傾けます。
まるで一流レスラーが、相手レスラーの実力を図りながら「どんな技を出したいのか」「どんな試合を作り上げたいのか」を引き出すかのように、「受け」に徹するのです。そうすればプロレスの名勝負が生まれるように、素敵な取材の場が生まれることでしょう。
プロレスの「受けの美学」を武器に、一流取材ライターへの道へ!

ここまでお読みいただき、プロレスの「受けの美学」が単なるエンターテイメントの技術ではないことをご理解いただけたでしょうか。
「受けの美学」は、相手を尊重し相手の良さを引き出すための「哲学」と言ってもいいかもしれません。この哲学を理解し、取材の場で実践できれば、あなたはきっと一流の取材ライターへと成長できるでしょう。
リングと取材現場は違えど、「受け」の精神は常にあなたの力となるはずです。まずは動画サイトを開いてプロレスの試合を観てみましょう!そして、プロレスから学び、取材ライターとして新たな武器を手に入れてください。
この記事を書いたライター

にのまえはじめ
パーソナルトレーナー、システムエンジニアなど複数の顔を持つ複業ライター。得意ジャンルはアニメ・漫画、ゲーム、特撮などのサブカルチャー、IT・システム開発関連、インタビュー記事など。クライアントからは「執筆速度の速さ」「斜め上の考...