ライターの顧客は誰?

まず、読者の皆さんに質問です。ライターの顧客とは誰のことでしょうか。
おそらく、報酬を支払ってくれるクライアントの顔が思い浮かんだのではないでしょうか。企業や編集プロダクション、個人など、クライアントの形態はさまざまではあるものの、報酬に着目して顧客を定義するのは間違いではないでしょう。
一方で、レスラーにとっての顧客は、試合を見に来たり、グッズを購入したりする観客です。報酬を支払ってくれるプロレス団体や興行主ではありません。プロレス団体や興行主を満足させても、高く評価されるレスラーにはなれないのです。
この図式をライターに当てはめた場合、顧客として意識すべきは、あなたに報酬を支払ってくれるクライアントではなく、その先の読者と考えられるのではないでしょうか。クライアントがあなたの書く文章を通して何を得たいのかを理解したうえで、執筆をしなければなりません。
納期を遵守したり、レギュレーションを守ったりという点は、確かにクライアントに喜ばれるでしょう。しかし、それは単なる「作業」に過ぎず、真の顧客満足にはつながりません。ルールを守ったうえで、クライアントの向こうにいる読者を満足させるにはどうしたらいいかを考える必要があります。
求められる役割を把握していますか?

ヒールレスラーはただのプロレスラーではなく、観客から嫌われて相手レスラーを引き立てる役割があります。観客の感情を揺さぶり、試合をドラマチックに盛り上げるのがヒールの腕の見せ所です。
ライターにもクライアントが求める役割があるのではないでしょうか。記事の目的やターゲットとなる読者層、クライアントの意図などを正確に把握し、求められる「役割」を理解すれば顧客満足度向上につながるはずです。
たとえば、商品の魅力を伝える記事では熱意あふれるプレゼンター、専門知識を解説する記事では冷静沈着な研究者など、求められる役割はさまざまです。
求められる役割を理解し、それを的確に演じきって執筆するのも、プロのライターの証といえるのではないでしょうか。
役になりきって執筆するのも必要

役割が理解できれば、その役になりきって執筆しなければなりません。ヒールレスラーの凄いところは、リングを降りれば「良い人」であるにも関わらず、リング上では徹底的に「悪役」になりきれる点です。
単に乱暴な言葉遣いをしたり、相手を貶めるような発言をするだけではありません。表情、身振り手振り、声のトーンなど、全てにおいて「悪役」を体現し、観客を感情的に巻き込むのです。
ライターもまた、記事のテーマやターゲット読者に合わせて、自身の「人格」を使い分けられると良いでしょう。
私自身、IT関連の記事を書く際には、かつてのエンジニア経験を呼び覚まし、専門用語を交えながらリアルな現場の雰囲気を伝えるように心がけています。
一方で、クライアントがコメントで賛否両論が巻き起こるようなコラム記事を求めているのであれば、自分の中の「悪役」を登場させて、酷いエピソードを執筆する場合もあります。時には、読者の心に突き刺さるような、感情的な言葉を使うことも必要です。
まるで憑依されたかのように、テーマに合った「人格」を演じきれれば、読者の心を掴む文章になりやすいと考えます。
良い文章と喜ばれる文章

「文章が上手い」ことと「読者に喜ばれる文章を書ける」ことは、イコールなのでしょうか。筆者はそうだとは思いません。
ヒールは、必ずしも「強い」レスラーではありません。あくまでも、観客が「見たいもの」を理解し、それを提供するプロフェッショナルです。
ライターも同様で、文法的に正しい文章や美しい表現を用いて「良い文章」に仕上げるのも重要ですが、もっと大切なのは、読者の「読みたい」に応えることです。
読者が求めるものは、役に立つ情報なのでしょうか、感動するストーリーでしょうか、それともうっぷんを晴らすはけ口でしょうか。どれだけ良い文章を書いても、読者に喜ばれなければ意味がありません。読者のニーズを的確に捉え、それに応える文章を書くことこそが、顧客満足度向上につながるのです。
複数の顔を使いこなして長く活躍するライターへ
長くライターとして活躍するには、ヒールレスラーのように役を演じて、複数の顔を使いこなせるようになるといいでしょう。時代の変化や読者のニーズの変化に合わせて、自身のスタイルを柔軟に変化させられれば、さまざまな分野でライターとして活躍できます。
得意なジャンルに注力して、専門性を追求する道も尊いですが、市場の変化に晒されやすいというリスクも抱えています。新しい分野に挑戦したり、今までとは違った表現方法を試したりして、自己研鑽を続けましょう。
ヒールレスラーのように、時には批判の声に晒されることもあるでしょう。しかし、それもまた、読者の心を深く掴み、議論を活性化させるための「燃料」と捉えてみましょう。
あなたも今日から「ヒール的思考」を武器に、読者の心に爪痕を残すライターを目指してみませんか。
この記事を書いたライター

にのまえはじめ
パーソナルトレーナー、システムエンジニアなど複数の顔を持つ複業ライター。得意ジャンルはアニメ・漫画、ゲーム、特撮などのサブカルチャー、IT・システム開発関連、インタビュー記事など。クライアントからは「執筆速度の速さ」「斜め上の考...