《はじめに》「良い文章とは」「良い原稿とは」「ライターとは」?
SNSでも見かけるように、世の中にはライティング論やライターの仕事論が溢れています。しかし、同じ「ライター」という肩書きを持つ方でも、経験した媒体により、それぞれ異なるノウハウで執筆がなされているのが実情です。
「ライターとはかくあるべき」「原稿はこう書くべき」が語られるとき、各々が大切にしてきた哲学が含まれているので熱くなってしまうのだと思いますが、ときに過激なポジショントークに発展したり、自身の流儀と違う方法をとるライターを批判したりといった様子も。
傍から見ていると、濃厚なチョコレートと新鮮なタイのお刺身と熟したマンゴーが同じ鍋に入って「どれが本物の一流食材なのか!?」と競っているように感じてしまいます。
それぞれが皆「美味しい」で良いではありませんか。混ぜたら闇鍋なので……。
これまで紙媒体で記者をしてきたのか、中立発信のWebメディアで書いてきたのか、企業のオウンドメディアでSEOをやってきたのか、広告やメルマガでセールスをやっていたのか。媒体ごとに本質的な役割が異なるので、当然「良し」とされる原稿も異なるでしょう。
「ライター」という大きな主語で1つに括るのは無理がありますし、同列に比較してどのライティング方法が最適なのかも断言できません。
つまり「良い文章」「良い原稿」の正解は何種類もあるということです。
さまざまな媒体の案件を受託するなら、契約先にとってなにが最適かを都度判断し、書き分けができる状態を目指すことが大切。ときに誰かの声を参考にするにしても、似た媒体・分野を経験した方に限定するのが良いでしょう。
また、冒頭のクエスチョンにも通じますが、「良い原稿」を目指す際に「文章力」だけにフォーカスしすぎるのも考えものです。書くことの本質は「伝えること」なので、単に書き方や文章力だけで戦おうとすると、実務でつまづいてしまうでしょう。
前書きが長くなりましたが、ここからは
- Webメディア
- オウンドメディア
- メディア型EC
- 法人アカウントのSNS
- 企業メルマガ
などの媒体で記事・原稿制作を経験したライターの目線”で、「文章力」以外にライターに必要だと思うスキルを4つご紹介します。
必要なスキル①物事を多角的かつ中立・公平に見る観察力
筆者がこれまでの仕事すべてに通じるスキルだと感じているのが、物事を多角的かつ中立・公平に見る力です。
まだ駆け出しだった頃、私は自分が知っている常識や経験・体験を正しいものと思い込んでしまう傾向があり、疑う視点を持てなかったことを後悔しています。捉えどころのない物事で溢れているこの世の中、自分の主観に固執してはダメだと今はわかるのですが……。
抽象的な話になりそうなので、化粧品を例にお話しましょう。
たとえばベストコスメを多数受賞している濃厚なクリームがあったとして、どんなに受賞数が多く自分の肌に合ったとしても、使って合わない人は必ずでてきます。では、輝かしい実績はウソなのかというと、そんなことはありません。
肌表面に水分も油分も少なく乾燥を感じる方には、油性成分の多い濃厚な使用感のコスメが有用です。逆に、肌にもともと水分も油分も充分にある方の場合はかえって油分過多に。肌質が違えば体感できる効果も異なるため、賛否が出るのは当たり前のことなのです。
こういった背景を踏まえずにメディア記事で解説・紹介パートを書くとき、色々な肌質の人がいることを前提としない表現になってしまったり、「私が使って良かったから」「みんなが良いって言っているから」という視点のみで紹介してしまったりと、内容が偏る懸念があります(※企画自体が対象を絞ったものなら問題ないのですが)。
「この商品は良いの?悪いの?」「これは正しい情報なの?間違ってるの?」のような、二元論的な考え方ではなく、もっと多角的に考えないと本質を捉えきれないのです。もちろん化粧品に限らず、ほかのあらゆることにも当てはまります。
まずは色々な立場の人が読むのだと想像すること。そして、どんな立場の人が読んでもできるだけ齟齬がないように、多角的かつ中立・公平な視点でリサーチや執筆に挑む姿勢が大切です。
必要なスキル②情報をスムーズに取捨選択できるリサーチ力
ライティングといえば「どう書く?」とアウトプットばかりが注目されがちですが、実はインプットも大切。その1つが、リサーチの工程です。
与えられた記事のテーマが、必ずしもすべて自分に知見があるものとは限らないので、たいていの場合、執筆前に改めてリサーチが必要になります。記事の情報の質は、このリサーチによって決まるといっても過言ではありません。
経験が浅いうちは「情報なんて、検索すればいくらでも出てくるのでは?」と思うかもしれませんが、原稿の参考にできるほど信頼性のある情報はかなり限られてくるのが実際です。
もちろん、検索画面に出てきた記事を上位から順にまとめる……などは論外。記事に入れ込む1つのトピックごとに、膨大な情報の海から最適な情報を選び出す必要があるので、ライターには情報をスムーズに見極め、取捨選択する力が求められます。
いつ発信されたどんな情報なのか?はもちろん、発信した人や組織の詳細、発信された背景なども確認し、情報源として適切かを見極めなければなりません。
はじめのうちは想像以上に労力がかかって、心が折れそうになったことを覚えています。
また、記事を書く際はただ正しい情報を列挙するだけでは不十分で、そこにライターならではの視点や切り口が必要なので、ライター自身が執筆分野に関して事前知識を持っておくことも大切です。
もし不足があると思ったら、リサーチ前に学びを深めておきましょう。執筆に必要な情報を、よりスムーズに取捨選択できるようになりますよ。
必要なスキル③人が求めていることを認識できる共感力
Web媒体の案件を受託する場合、ほぼ避けては通れないのが「PV(閲覧数)」です。よりたくさんの人に読んでいただく(=高いPVをとる)ためには、読者が何を求めているのか(=ニーズ)を認識できなければなりません。
言語化されていない暗黙知も多く、このニーズを理解するのはとても骨が折れる作業です。SEOなどのマーケティングに携わると「検索意図」という用語でおなじみですね。Webで執筆するライターは、企画時点でこの「読者のニーズ」を把握することが重要になります。
一見簡単に見えますが、この「ニーズ」はとても奥が深いもの。たとえば、「寿司屋 地名 おすすめ」のKWの検索意図を考えるとき、駆け出しのライターなら「あ、お寿司屋さんを知りたいんだな」と考えると思います。
では、その人はなぜお寿司屋さんを調べているのでしょうか? よほどのマニアでない限り、寿司店に関しての知識を深めたいわけではないはず。たいてい、本当に求めているのは「美味しいお寿司を食べる」という体験自体にあるのです。
KWで言語化されていたわけではありませんが、ここまでニーズがしっかり考えられるようになると、SEO記事の企画や構成の作成がスムーズになります。また、企業のマーケティングのためのほかの制作でも、読者との信頼を結ぶ足がかりになりますよ。
これらのニーズをうまく把握するためには、他者の気持ちへの「共感」が必須だと筆者は考えています。
画面の向こうの読者の状況を想像できないといけませんので、生の人の声に耳を傾けたり質問サイトの投稿を読んだりなど、人の本音に触れる機会を設けて共感力を養いましょう。
必要なスキル④読者に合った言葉で魅力的に伝えられる表現力
これまで「文章力」系の本を何冊も読みましたが、そのなかで語られることのほとんどが、媒体ごとの記事構成の話、一文・段落をどう作るかという話、説得力のあるロジックの組み立て方の話で、不思議と表現に関して言及している本にはなかなか出会えませんでした。
当時魅力的な表現を模索していた私は「どうしよう」と困り果てていましたが、あるとき、とあるライティング講座で答えが見つかったのです。
その講座では雑誌編集の経験をお持ちの講師の先生が、「映画や本などのアート作品に触れて(インプットの際に)多くのことを感じ取れる感性を養うように」と教えてくださいました。
つまり「こう書けばいい」のようなノウハウがあるわけではなく、長い積み重ねの上に漠然と存在するスキルなのだと理解しました。それを知ってからは、仕事以外でなにかを鑑賞する時間を大切にしていますし、他の方が書かれている本や作品などを見て表現も学ぶようにしています。
書く媒体にもよりますが、多くの場合、受託して執筆するタイプの原稿は先方が想定している読者の方に合った表現が必要です。原稿に書かれた表現が読み手にどう映るか、媒体の想定読者と合致するかを考えながら、読む方の感性に触れる表現を上手に扱えなくてはなりません。
単に自分の語彙・表現だけで文章をつくるのでは、いずれ限界がきます。「どう書いたら、魅力的な文章になる?」を考え、探るのは果てしない作業ですが、それを考え続けること自体がライターの仕事の本質なのかもしれません。私自身、今後も追求していきたいと思っています。
もちろん、初心者なら本章冒頭に紹介した「文章力」系の本も参考にして、記事の要素を知る段階も必要でしょう。そのうえで、文章力だけがライターの仕事のすべてではないことも、ぜひ覚えていてください。
《終わりに》文章力以外のスキルも、少しずつ身につけていこう
「良い文章とは?」「良い原稿とは?」「ライターとは?」は、書く媒体によって大きく異なるので、主語の大きな世論に振り回されなくてOK。契約先の媒体に応じて書き方や表現を変えたり、参考にする手本を変えたりする柔軟性を持ってください。
また、とくにWebライティングの仕事論では文章力ばかりにフォーカスされがちですが、今回ご紹介したようにほかにも目を向けるべきスキルはたくさんあります。「〇〇さえ身につければOK」のようなインスタントなノウハウを過信せず、なにが最適なのか、案件ごとに追求していく姿勢を大切にしましょう。
正直、右も左もわからず進んできた過去の自分に教えたいことばかりですし、8年目とはいえ今の自分もまだ道半ばなので偉そうに書くのも憚られました。
それでも、同じようにライターを目指しているあなたに伝えることができればと思い筆をとったので、なにか少しでも役立つ内容があれば幸いです。
この記事を書いたライター
WhiteLily*
“書く”ことに情熱を注ぐコンテンツライター。美容・ライフスタイルなど、女性にとって身近なジャンルの記事を執筆するのが得意で、コスメコンシェルジュ資格を活かした発信も行っています。モットーは「一日一善」、そして「誠心誠意」。生活に...

