高校生のころに「エッセイ」というジャンルを知った

私は幼い頃からかなりの活字中毒で、暇さえあれば本を読みあさっていました。とはいっても中学生までは基本的に小説を読んでいたんです。
エッセイという分野に初めて触れたのは高校生のとき。
我が母校は当時「誰かがリクエストした本は基本的に何でも翌月図書館に入荷される」という神がかったシステムを採用していました。アイドルの写真集やBL小説まで入っていたので、おそらくマンガ以外の「書籍」であればOKだったのではないでしょうか。お小遣いに限りのある高校生にとっては、本当にありがたい環境でした。
最初に手に取ったエッセイが何だったのかは、今となってはさすがに覚えていません。ただ、序盤にハマっていたのは原田宗典さんのエッセイでした。
ギャグ色の強いおもしろエッセイがたくさんあり、高校の図書館にもばっちり入荷されていたので、片っ端から読んでは通学の電車でニヤニヤをこらえたものです。ごめんなさい、嘘です。確実にこらえられていませんでした(笑)。
徐々に女性の書いたエッセイに興味を持つように

高校の図書館に通い詰めるうちに、私は徐々に女性作家によるエッセイに惹かれていきました。どちらかというと大人になりたい願望の強いタイプだったので、働く女性の視点や思想に触れてみたいという願望があったのでしょう。
高校時代から大学卒業くらいまで、エッセイブームは続きました。中学生時代にライトノベル『ゴクドーくん漫遊記』を読んでいた中村うさぎさんが、実はその裏でハチャメチャな買い物依存に陥っていたことを知ってドギマギしたり、かなりマニアックで笑えるエッセイを書いていた三浦しをんさんの小説を後から読んで、あまりに瑞々しい感性と文才に震えたり。
自分が大学生になってアルバイトをするようになってからは、本棚の文庫本がどんどん増えていきました。
中でも特にハマっていたのが酒井順子さんの著書です。彼女の明るすぎず暗すぎない適度なテンションと、漂ってくる知性、そして男っ気のない雰囲気に、女子高通いだった私はほのかな親近感を抱いていました。
私は大学時代には自分用のPCを手に入れ、当時流行っていた個人サイトを運営していました。メインコンテンツはずばり、酒井順子さんの影響をかなり受けた文体のエッセイです。
執筆中には影響を受けているという意識はまったくありませんでした。しかし数年後に読んだとき「これって酒井順子さんの本を読みながら書いたんだっけ?」と自分でも驚いたくらい、大学生の私は「酒井節」を再現した文章を書いていたのです。
私には一度買った本を何度も繰り返し読む癖があります。それゆえ、好きな作家さんの影響が強く現れていたのでしょう。
『負け犬の遠吠え』は元々のファンから見ても最高傑作だと思った

そんな風にエッセイを読んだり書いたりしていた2003年、酒井順子さんの『負け犬の遠吠え』が講談社エッセイ賞と婦人公論文芸賞を受賞しました。
2004年の流行語大賞でトップテン入りしたときにも話題になりましたね(ちなみにこの年の年間流行語大賞は水泳の北島康介選手の「チョー気持ちいい」だそうです。懐かしい…!)。
『負け犬の遠吠え』は、筆者自身の属性でもある30代以上・未婚・子ナシの女性を「女の負け犬」と定義し、仲間たちへの優しく熱いエールを送る傑作エッセイ集です。今となっては、30代以上の女性が未婚であっても特に何とも思われない風潮になりましたが、当時はまだあれこれ言う人も多かったのでしょうね。
そして何より、負け犬本人たちの中にどこか卑屈な気持ちがあった時代なのでしょう。本書では「そういう気持ち、わかるよ。だって私もそうだから」「勝ち犬女性にケッと思ってしまうのもわかるよ。だって私もそうだから」「まぁ、一緒にうまく世の中渡っていきましょうね」というメッセージが繰り返し発信されています。
私自身は20代後半で結婚こそしたものの性根が負け犬気質だと自認しているため、この本には何度も励まされたものです。
また、酒井順子さんの観察眼、そして「皆がなんとなく感じていることを言語化する」力はすさまじく、そこが好きなポイントでもあります。以下で特にお気に入りの表現を引用します。
勝ち犬を勝ち犬たらしめる、象徴的存在。それがナチュラルストッキング(以下、ナチュスト)であると私は思います。常識的な丈のスカートから伸びるナチュストをはいた脚というのは、ダサすぎもせずおしゃれすぎもしないという絶妙な存在感を、常に醸し出してくれる。良く手入れをされてハチミツ色に輝くナマ脚や、複雑な模様がある黒タイツをはいた脚とは違って、「私は普通の人間です」ということを、世に知らしめてくれるのです。
「ナチュラルストッキングは普通の人間であることを示す記号」!
なるほど、と思いました。
そして、こんな短い文章からもにじみ出る、勝ち犬女性へのちょっぴりチクチクした黒い感情と、モテないとわかりつつも自分の好みを優先してしまう負け犬女性に寄り添う温かい気持ち。酒井順子さんの、優しく穏やかだけれど決して清廉潔白な人格者とはいえないところも私は大好きです。
【エッセイ読書のススメ】良い表現・好きな表現をたくさん摂取しよう

「Webライターさんにおすすめしたい本は何か」と考えたときに、最初はライティングの知識に関する書籍や、ライターとしてやっていくためのノウハウ本を紹介しようかなと思っていました。
が、今回は思い切ってエッセイというジャンルそのものを紹介することにしました。
ライティングに関する書籍は多数出版されており、紹介している記事も既に世の中にたくさんあるからです。Mojiギルド内にも「初心者ライター向けWebライティング本おすすめランキング20選」という記事がありますので、知識を学びたい方はぜひそちらの記事をご覧ください。
そして、最近のWebライター界隈には「今後は『独自性を出せるライター』や『自ら発信していくライター』こそが長く生き残れる」という言説があります。無難な文章をそこそこ書けるだけではAIに勝てなくなる日が、すぐそこまで迫ってきているような時代です。
だからこそ、Webライターさんには良質な文章に触れ、良質な文章をアウトプットする能力が求められていくのではないかと考えています。
私は今回酒井順子さんを紹介しましたが、ある程度ファン層が限定される作家であるということは重々承知なので、誰もが『負け犬の遠吠え』を読むべきだとは考えていません。お伝えしたいのは、ぜひお気に入りのエッセイ作家さんを見つけ、追いかけてみてほしいということです。
書店でパラパラッと目次を見たり、中を数ページ読んだりしてみて、直感的に「この人の文章、好きかも」と思ったものを買ってみましょう。自分にはない視点や表現方法に触れる経験は、きっとあなたの成長に繋がるはずですよ。
この記事を書いたライター

歌耶子
副業Webライター。本業は国語をこよなく愛する塾講師です。文章を読むのも書くのも好き過ぎて、ライターの世界に足を踏み入れました。休日は夫が引くほど長時間PCに張り付いて文章を打ち続けています。実はかなりのゲーマーで、個人では趣味のゲ...